私の研究:「細菌が制御する海洋物質循環メカニズムの解明」 – 研究員 山田洋輔

海洋中の細菌が粒子 (懸濁態有機物、数 µm–数 cm) の沈降速度に、どのように影響しているか、研究をしています。 海洋において、粒子の沈降速度は、その粒子の輸送量や存在時間を決定するため、食物連鎖や物質循環を考える上で非常に重要です。海洋に普遍的に存在する細菌は粒子に付着し、それを分解することで、エネルギーを得ています。 このとき粒子には様々な物理化学的性質の変化が生じているのですが、それが最終的に粒子の沈降速度にどのような影響を与えているか、明らかにされていませんでした。

私は、海洋中に多量に存在している、フコイダンとキトサンという2種の多糖類を用い、モデル粒子を作製しました (図1)。こ れにより、組成が明らかで、再現性のある粒子をいつでも得ることができます。 そして、このモデル粒子と海洋細菌群集を実験室内で培養することにより、「細菌が粒子の空隙率上昇を引き起こし、沈降速度を低下させる」ことを発見しました (※1)。

さらに、北極海で行った現場観測 (学術研究船みらい、MR12-E03次航海) (図 2) では、水深 10-30 メートル付近に多くの粒子が漂って存在していることを発見し、「実際の海洋環境中において、細菌が沈降速度の遅い粒子の生産に寄与している」可能性を見出しました (※ 2)。 今後も、室内実験と現場観測を組み合わせつつ、細菌が制御する海洋物質循環メカニズムの解明を行っていきます。

※1 Yamada Y, Fukuda H, Inoue K, Kogure K, Nagata T (2013) Effects of attached bacteria on organic aggregate settling velocity in seawater. Aquat Microb Ecol 70: 261–272 <OPEN ACCESS>

※ 2 Yamada Y, Fukuda H, Uchimiya M, Motegi C, Nishino S, Kikuchi T, Nagata T (2015) Localized accumulation and a shelf-basin gradient of particles in the Chukchi Sea and Canada Basin, western Arctic. J Geophys Res Oceans, 120: 4638–4653 <OPEN ACCESS>

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図 1 作製したモデル粒子に付着する細菌群集
(モデル粒子:うっすら見える黄緑部分、細菌:青く光るたくさんの楕円形)

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図 2 北極海における粒子の現場観測の様子
(現場粒子測定器をクレーンで海に降ろすところ。15–20 cm 間隔で、水深 200 m まで粒子の量とサイズ分布を測定する。)

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