論文発表: 海洋炭素循環 ― 収入より支出が多い謎を解く

海の炭素循環を理解することは、人間活動で排出される二酸化炭素の行方や、今後の地球環境の変動を予測するうえでとても重要です。海洋炭素循環の研究の中では、これまで海洋の中深層に供給される炭素量と、そこで消費される炭素量の間に、大きな不一致があることが大きな問題になっていました。つまり供給量(粒子の沈降による深層への有機物負荷)に対して消費量(深層の微生物群集による有機物分解)が大きく上回るという問題です。このことを家計にたとえると、収入よりも支出がずっと大きいことを意味しており、普通に考えると、このままでは生活が成り立たないということになります。

私たちは、この謎を解く鍵は、収入が季節的に大きく変動することにあるのではないかと考えました。本研究では、西部北太平洋の2つの観測点で得られた2年半にわたる沈降フラックスの時系列観測の結果と、海洋中深層の微生物炭素消費量の詳細な鉛直分布データをあわせて解析することで、海洋中深層の炭素収支の謎に挑戦しました。その結果、私たちの予想通り、「炭素不均衡問題」の一部は、供給と消費の季節的な脱共役(非定常プロセス)によって説明できることが明らかになりました。この成果は、海洋炭素循環の仕組みについての理解を深めるうえで重要な意義があります。(永田俊)

この研究は、大気海洋研究所と海洋研究開発機構の共同研究として実施されました。

Mario Uchimiya, Hideki Fukuda, Masahide Wakita, Minoru Kitamura, Hajime Kawakami, Makio C. Honda, Hiroshi Ogawa, and Toshi Nagata (2018) Balancing organic carbon supply and consumption in the ocean’s interior: evidence from repeated biogeochemical observations conducted in the subarctic and subtropical western North Pacific. Limnology and Oceanography. doi.org/10.1002/lno.10821


 

 

 

 

 

 

 

図1.本研究で時系列観測を行ったK2(亜寒帯海域)とS1(亜熱帯海域)という二つの定点

 

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