私の研究:「極微量放射性炭素測定法の開発」‐特任研究員 山根雅子
放射性炭素(14C)は、炭素の同位体の一つで、大気上層で宇宙線と窒素原子が反応することによって生成されます。生成された14Cは、酸化され二酸化炭素となって大気中に拡散し、食物連鎖を通して、動植物に取り込まれます。14Cは5730年の半減期をもつので、これを利用し年代測定が広く行われています。また、14Cは様々な動態研究においてトレーサーとしても利用されています。
大気海洋研究所の高解像度環境解析センターには、14C測定の前処理設備およびシングルステージ加速器質量分析装置があります。この施設を利用して、私は極微量での14C測定法の開発を行っています。一般的な14C測定では、1mgC(炭素の量での重量)の試料が必要です。私は、前処理の過程で混入するコンタミネーションを減らす方法や安定して測定できる加速器の条件などを検討して、従来法の100分の1に相当する、10μgC(=0.01mgC)での14C測定を目指しています。
極微量14C測定は、従来は測定不可能であった量の試料の分析や、連続的な試料の高時間分解能での分析を可能とし、様々な応用研究が考えられます。例えば、生物試料や環境試料に含まれる脂肪酸やアミノ酸、クロロフィルなどの有機化合物レベルでの14C測定が可能となります。また、輪紋ごとに削り出した耳石の14C測定から、高時間解像度での魚の回遊履歴の推定が期待されます。
(特任研究員 山根雅子)
写真1:試料のプレスの様子
写真2:大気海洋研究所のシングルステージ加速器質量分析装置