海洋細菌表面の「粗さ(ラフネス)」がコロイド捕獲を促進する
海洋細菌とコロイドの相互作用に関する論文がLimnology and Oceanography誌に掲載されました。
Yosuke Yamada, Nirav Patel, Hideki Fukuda, Toshi Nagata, Satoshi Mitarai, Farooq Azam
“Bacterial surface roughness regulates nanoparticle scavenging in seawater” Limnology and Oceanography. First published: 27 January 2023 https://doi.org/10.1002/lno.12309
プレスリリース
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20230131/
内容
海洋には大きさが1~1000 nmのコロイド有機物(nanoparticles)が多量に存在し、従属栄養性細菌の栄養基質として重要な役割を果たしています。しかし、細菌によるコロイド粒子の捕獲機構については知見が限られています(参考文献1~3)。本研究では「細菌表面の粗さ(ラフネス)」という物理性状に着目することで、コロイド捕獲に影響を及ぼす新規要因を明らかにしました。
原子間力顕微鏡で得られた画像(図1)の解析から、ラフネスが大きくなると、より多くのコロイド粒子が捕獲されることがわかりました。また、亜熱帯から亜寒帯にかけての広範な海域での調査の結果、海水温の勾配とラフネスの間に相関関係があることを見出しました。
今後、細菌の適応・進化とラフネスの関係や、物質循環の隠れた支配要因としてのラフネスの役割を解明する必要があります。
本研究は、東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構、沖縄科学技術大学院大学、カリフォルニア大学スクリップス海洋研究所の共同研究の成果です。また、生元素動態グループの永田教授が代表の科研費基盤研究S(19H05667)などの支援を受けています。
参考文献
- Koike, I., S. Hara, K. Terauchi, and K. Kogure. 1990. Role of sub-micrometre particles in the ocean. Nature 345: 242‒244
- Nagata, T., and D. L. Kirchman. 1997. Roles of submicron particles and colloids in microbial food webs and biogeochemical cycles within marine environments, p. 81‒103. In J. G. Jones [ed.], Advances in Microbial Ecology. Springer
- Seo, Y., E. Ikemoto, A. Yoshida, and K. Kogure. 2007. Particle capture by marine bacteria. Aquat. Microb. Ecol. 49: 243‒253, doi:10.3354/ame01147
図1 原子間力顕微鏡がとらえた海洋細菌のラフネス。解析の結果、表面のデコボコによって、コロイド捕獲が促進されることが明らかになった (Image from Yamada et al. (2023) Limnology and Oceanography, https://doi.org/10.1002/lno.12309)