論文発表:海洋の内部波によるサンゴ礁の冷却-白化緩和効果の可能性を指摘

東京大学大気海洋研究所のAlex Wyatt特任研究員(現、香港科技大学助教授)、James Leichter招聘教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所教授)、永田俊教授らの研究グループは、太平洋の広範な海域において、サンゴ礁が、内部波(海中に発生する波)によって冷却されていることを明らかにしました。本成果はNature Geoscience誌に11月18日オンライン掲載されました。

近年、海水温の上昇を主原因とするサンゴの白化現象が世界的に深刻化しており、白化リスク評価の精度向上や緩和策の立案が課題になっています。これまで海表面水温の上昇とサンゴ白化の関係を広域的に解析する研究が行われてきましたが、数時間~日スケールでの水温変動の実態や、水深が30mを超える深場サンゴの水温環境については十分な知見が得られていませんでした。
本研究グループは、世界的に大規模なサンゴの白化現象が見られた2015年から2016年にかけてのエルニーニョ期に、太平洋の東西をむすぶ3地点―西表島、モーレア島(フランス領ポリネシア)、チリキ湾(パナマ)―のサンゴ礁において、海水温を深度毎(10~50m)に連続測定しました。その結果、調査したすべての地点で、内部波の影響により、サンゴの水温環境が約半日の周期で大きく変動していたことがわかりました。特に深場のサンゴでは水温の変動幅が大きく、一日のうちに10℃以上も水温が上下する場合もありました。このような顕著な水温変動が、サンゴに及ぼす影響を検討した結果、内部波はサンゴ礁に対して冷却作用をもたらしており、これによってサンゴの白化リスクが有意に軽減し得ることがわかりました。ただし、深場のサンゴに対しては、内部波が「過冷却」のストレスを与える可能性があることも示されました。

本研究により、これまでほとんど考慮されてこなかった、内部波による冷却作用が、サンゴの生育に強い影響を及ぼしている可能性が示されました。このことは、サンゴの白化リスク評価の手法を高度化するうえで重要な意義があると考えられます。また、温暖化による海水温上昇が引き起こすサンゴ被害の緩和策として、深場を「避難所」として利用することが検討されていますが、このような取り組みの中でも、本研究が明らかにした、内部波による冷却作用の影響を考慮する必要があると考えられます。

「海の表面に波があることはだれでも気が付きますが、海中にも内部波という波があることや、その波の高さが数10mから数100mにも達することはあまり知られていません」とWyatt研究員は話します。「内部波は、高水温の表層と、低水温の深層の境界面で発生するので、それがサンゴ礁に到達すると大きな水温変動につながるのです。これまでのサンゴ研究の中では、内部波による冷却作用はほとんど考慮されてきませんでしたが、この”自然のエアコン”ともいうべき仕組みの特性や働きを詳しく解明すれば、サンゴ保全のための効果的な手法の開発につながるかもしれません」と続けます。

掲載論文情報:

Wyatt, A.S.J., Leichter, J.J., Toth, L.T., Miyajima, T., Aronson, R.B. and Nagata, T.(2019), Heat accumulation on coral reefs mitigated by internal waves, Nature Geoscience, DOI:10.1038/s41561-019-0486-4

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