論文発表:ワカメが記録した親潮の流入履歴―放射性炭素同位体比の新しい利用法の開発

三陸沿岸域は、親潮と黒潮が混じり合う複雑な海域です。この研究では、親潮と黒潮の溶存無機炭素の放射性炭素同位体比(Δ14C)が異なることから、沿岸域の一次生産者であるワカメのΔ14Cを測定することで、海流の流入状況を推定できるのではないかと考え、その検証を行いました。具体的には、岩手県大槌湾でワカメの栽培を実施し、生育の途中で、側葉にパンチ穴をあけ、 “形成時期“の目印を付けました。そして、収穫したワカメのパンチ穴に対応する側葉のΔ14C値を測定しました。その結果、親潮流入後に形成された側葉は、親潮流入前に形成された側葉のΔ14C値よりも有意に低い値を示し、親潮の流入に伴い、ワカメのΔ14C値が低下していることがわかりました。このことは、光合成により固定された親潮水に含まれる古い溶存無機炭素が、ワカメの側葉組織に保存されていることを示しており、側葉のΔ14Cを調べることで、ワカメが成育した当時の親潮水の流入状況を復元できることが示唆されます。今後この手法は、親潮の流入と海藻の生育の複雑な関係を調べるツールとして利用できることが期待されます。(佐藤菜央美)

Satoh N, Fukuda H, Miyairi Y, Yokoyama Y, Nagata T (2019) Position‑dependent radiocarbon content of the macroalgae Undaria pinnatifida as an indicator of oceanographic conditions during algal growth. Journal of Oceanography, https://doi.org/10.1007/s10872-019-00508-7

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