論文発表: ウィルスが大型粒子を作り出す? 生物ポンプの新しい制御メカニズム
海水中の粒状態炭素 (大きさ:約 ≧1 µm) は沈降することで海洋中の炭素を表層から深層へ輸送する役割があります。輸送された炭素は100-3000年という期間、海洋深層に貯留されるため、粒状態炭素の生成や輸送がどのように行われているかを詳細に把握することは、地球規模の炭素循環モデルを高精度化するために重要です。
海洋表層中に多く存在しているウイルスは微生物に感染し、細胞破壊を引き起こすことで、粒状態から溶存態と、深層へと輸送されにくい炭素への変換をしています。その一方、ウイルスの感染は、海水中へ大量の細胞破片や粘着性ポリマー等を放出させるため、有機凝集体の形成(溶存態から粒状態への炭素変換)を促進している可能性が指摘されていました。しかし、ウイルス感染と凝集体形成の関係は、実験的に検証されておらず、詳細なメカニズムは明らかにされておりませんでした。
本研究では、単離された植物プランクトン (珪藻の1種: Chaetoceros tenuissimus) とこれに感染するウイルスを実験室中で培養し、凝集体形成の有無 (凝集体の数・大きさ等) を経時的に観察・測定しました。
結果はウイルス感染により植物プランクトンが死滅すると、タンパク質含有ポリマーの放出が促進され、凝集体形成の促進を引き起こすことが明らかになりました。さらに、その凝集体の中には、タンパク質や多糖類を含んだ密度の高いフレーク状粒子が含まれていることを発見しました。これらはウイルス感染が、密度が高く、沈降速度の大きい凝集体の形成を促すことを示唆しており、海洋深層への炭素輸送に大きく影響している可能性があります。今後は、他種の植物プランクトンを使用したり、細菌等の従属栄養生物と一緒に培養したりすることで、海洋炭素循環におけるウイルスのより詳細な役割を解明していく必要があります。(山田洋輔)
掲載誌:Frontiers in Marine Science