論文発表: 透明細胞外ポリマー粒子の海洋深層における分布
透明細胞外ポリマー粒子(TEP)は、植物プランクトンや細菌から放出される4-100 µmほどの不定形の粒子で、アルシアンブルーという染色剤に染まる酸性多糖類です。海水中にたくさん存在しているTEPは、微生物の炭素源として利用される他、凝集体を形成し沈降するため、海洋の物質循環に大きく影響していることが知られています。これまでの研究では、TEPの分布は主に海洋の表層(深さ0-200mほど)で測定されてきました。しかし、海洋の深層(200m以深)におけるTEPの分布は測定例がごくわずかで、その分布や炭素量は詳しく分かっておらず、物質循環や微生物に与える影響はこれまで明らかにされていませんでした。
本研究では、研究学術船を利用した航海により、西部北極海(みらい航海、MR12-E03)および中央太平洋(白鳳丸航海、KH13-7)において、海水を表層から深層まで(0-5000 m)層別に採取し、TEPの分布を測定しました。その他、粒状態炭素濃度、細菌数、細菌生産量などといったパラメータの測定を行い、TEPの分布との比較や考察を行いました。
結果は、北極海と太平洋では、TEPの分布は大きく異なっており、北極海では表層から深層にかけて濃度が低くなっていく一方で、太平洋では表層から深層までほぼ一定の濃度分布をしていました。驚くべきことに、北極海・太平洋でのTEPが含む炭素量は、粒状態粒子炭素量と比べ、中深層(200-1000 m)で2-3倍、深層(1000-4000 m)で6倍ほど多いという結果でした。この結果は、TEPは海洋の中深層において、重要な炭素源として働いている可能性を示唆し、微生物の餌資源や物質循環などにも影響している可能性があります。今後はより正確なTEP含有炭素量の分析方法の検討および他の地域での観測等を行う必要があります。
掲載誌:MARINE ECOLOGY PROGRESS SERIES
TEPの北極海と太平洋における平均濃度分布。北極海ではTEPの分布は表層が高く、深層で低い。太平洋では、ほぼ一定の分布をしている。