インタビュー:高巣 裕之 博士/長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科 環境科学領域 助教
生元素動態分野に所属し、その後新たなステージへと巣立って行った研究者にお話を聞きました。
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科 環境科学領域 助教
高巣 裕之 博士
生元素動態分野での所属期間:2013年5月−2015年10月(2年6ヶ月)
専門分野:生物地球化学、海洋環境学
出身大学:京都大学理学研究科博士課程修了
学生時代の専攻:生物地球化学、微生物生態学
私は2015年11月から「環境科学部」という学部に所属しています。大学生の頃は「環境科学」を専攻していたことや、大学教育に興味があったことが現在の就職先に応募した動機です。大学生、大学院生に環境科学に関する教育(講義・実験)を行うことと、大学生、大学院生と一緒に海洋環境に関する研究を行うことが現在の主な使命です。
教育も研究も信頼で成り立っている
教育も研究も信頼で成り立っているものなので、教育面であれば、自身の発した言葉や姿勢に責任が問われますし、研究面であれば、自分の公表したデータや論文には責任が問われます。私は、後世に長い間信頼されるもの(教育であれば考え方など、研究であれば論文)を残せるような働き方をしたい、というのが、教育・研究両面に取り組むにあたり、私の大切にしていること(というよりも、実際は、そう在りたいという目標)です。
生元素動態分野では、東北地方太平洋沖地震とそれにともなう巨大津波で被害を受けた東北の海の生態系が、震災前とどのように変わったのか、そしてどのように回復していくのかを、生態系の基盤である栄養塩や有機物動態を中心に調査するのが、私の主なミッションでした。東北海洋生態系調査研究船「新青丸」に、たくさん乗船しました。
分野の枠にとらわれず問題解決への考え方やアプローチを学んだことが今に活きている
生元素動態分野での研究の多くは、「生物地球化学」という学際的な研究分野に最も近く、生物学や化学、地学の枠に捉われず、それぞれの知識を使って、地球で起きている現象を理解しようとするものです。「環境科学」も同様に、問題の解決には、様々な学問分野の複合的な知識や、それを活かしたアプローチが必要とされます。そのため、生元素動態分野で学んだ問題解決への考え方やアプローチは、今の仕事に活かされている点だと思います。また、研究航海や東日本大震災の復興支援研究に関わり、実際に現場で汗を流して、いろいろな研究者や技術者、地元の方と関わり、自分の目で見て心で感じたこと、多様な考え方や価値観に触れたことは、自分の研究や教育の幅を広げる意味で、非常に重要であったと感じています。
積極的に意見を求めることで得られる将来の“財産”
私自身がもう少しやっておけば良かったな、と思っていることですが、先生方に、もっと自分の論文やプレゼンテーションについてのコメント、添削をお願いすれば良かったと思っています。生元素動態分野の先生方は、数多くの研究論文や著書の執筆、大型研究資金の獲得などの業績があり、論理的に物事を記述したり、効果的に他者に伝える技法に関して、熟知されています。私自身も、論文やプレゼンテーション、研究費の申請書などに何度かコメントを貰いましたが、これらは、確実に今の自分の財産となっています。論理的に物事を記述したり、効果的に他者に伝える能力は、将来どのような道に進むかは関係なく、必ず自身の財産になると思います。自分の書いた文章やプレゼンテーションに率直な意見を貰うのは勇気がいりますが、積極的に意見を求めると得られるものも多いと思います。
後輩たちへのメッセージ:
研究生活は、楽しいことばかりでなく、うまくいかずに行き詰まり、立ち止まってしまうことも多いと思います。私は、誰かに自分の考えを話すことで自分の頭の中が整理されたり、解決の糸口が見えたりすることも多かったです。大気海洋研究所は、いろいろな研究分野、価値観、考え方を持った人たちがいるので、そういう意味でも、行き詰まったときには、立場や分野の枠にとらわれず、誰かに相談や雑談をしながら、充実した生活を送ってください。