サンゴ礁というと、真っ青な南の海のただなかに忽然と現れる生き物の楽園を思い浮かべるかもしれません。そこには、地球上でもっとも生産性の高い生態系のひとつであるサンゴ群落が発達しています。しかし、真っ青な南の海、すなわち栄養塩濃度の極めて低い貧栄養海域のただなかで、そのように高い生産性をもった生態系がどのようにして維持されているのでしょうか。 実は、このことは「サンゴ礁のパラドックス」とよばれ、古くから多くの研究者の関心を集めてきました。しかし、サンゴ礁生態系の維持機構については、今日でもよくわからないことが多く残されています。
生元素循環の仕組みを明らかにして保全に役立てる
本プロジェクトでは、サンゴ礁の生元素循環が、大きくわけて、サンゴ礁の内部でのリサイクルと、サンゴ礁の外部(外洋)との物質のやりとり、というふたつの側面をもっているということに着目し、特に、従来の研究では見落とされがちであった、内部波による外洋からの物質流入の影響の評価を目指しています。 そのために、沖縄の石垣島や西表島を主なフィールドとして、各種同位体解析やトレーサー実験、またサンゴ礁と外洋の水の交換の調査などを実施しています。
近年、サンゴ礁は、温暖化、富栄養化、乱獲などの影響により、海域によってはその存在が危機に瀕しているところもあります。このような深刻な問題に対処し保全策を考えるうえで、サンゴ礁生態系の維持に関わる生元素循環のメカニズムを正確に理解することが、ますます重要な課題になってきているのです。
本プロジェクトは、日本学術振興会科学研究費補助金の支援をうけて多くの研究機関との連携のもとに進めています。
本プロジェクトに関連する主な成果
Thibodeau, B., Miyajima, T., Tayasu, I., Wyatt, A.S.J., Watanabe, A., Morimoto, M., Yoshimizu, C. and Nagata, T. (2013) Heterogeneous dissolved organic nitrogen supply over a coral reel: first evidence from nitrogen stable isotope ratios. Coral Reefs, DOI:10.1007/s00338-1070-9
サンゴ礁の窒素循環において重要な役割を果たす可能性がある溶存有機窒素の動態を、窒素安定同位体比を使って解析しました。